An Other take on the riddle of sex: excess, affect and gender complementarity

【今回取り上げる著書】

〔著者〕Jessica Benjamin

〔出典〕Beyond Doer and Done to: Recognition Theory, Intersubjectivity and the Third,2018, 111-142. 


【本文献を選んだ理由】

 クライエントからセラピストへの恋愛感情は多くの場合「転移性恋愛」と命名され,治療効果を妨害する要因として扱われる傾向がある。しかし,私は,本来,恋愛感情は創造的な感情であると考えている。そこで,今回,治療関係における恋愛感情の創造性に対する評価に共感したことから本章に選定するに至った。本章を通して,治療場面で生じる恋愛感情の創造的側面を活か す治療者のあり方について議論したい。


【文献の内容】

 フロイトは性的快楽や苦痛が個人内界で発生すると考えたが,間主観的観点では二者間の関係性の中で生じると考える。さらに間主観的観点では人生早期のアタッチメント不全から恋愛感情が過剰化すると捉える。

 人生早期に養育者から愛情(性愛)欲求を拒否される形で関係不全を体験した場合,愛情(性愛)欲求をもったことに恥や罪の意識をもち,傷つくことになる。クライエントはさらに傷つく ことを回避するために,自分の中の愛情(性愛)欲求を否認する。愛情(性愛)欲求の否認は恋愛 感情の過剰化につながり,恋愛関係において支配(やるか)か服従(やられるか)かの防衛的な 姿勢を取りやすい。一般的に支配は男性性,服従は女性性と同義とされ,過剰な恋愛感情に囚わ れた男性と女性との恋愛は支配と服従の関係となりやすい。

 治療場面において,男性クライエントから過剰な恋愛感情を向けられた女性セラピストがサードネスの空間において身を任せ続けることで,男性クライエントは愛情を求めて恥をかかされるのではないかという恐怖を軽減させ,愛情を求める主体になることができることにつながる。いかなるジェンダーのセラピストも,クライエントのアタッチメントのトラウマからの回復と主体性の回復のために,クライエントから向けられた恋愛感情やセラピスト自身の中で生じた恋愛感情を否認してクライエントに恥をかかせないように努め,それらの存在を認めてクライエントとの間で繰り広げられるエロスの関係性の中でセラピストして生き残ることが重要である。


 【発表者の感想】

 性的恋慕は,人生の主要内容のひとつであり,愛の悦びにおける心の満足と肉体の満足の統合 は,まさしく人生の絶頂のひとつにほかならない(Freud, 2015)。クライエントが恋愛感情を向けてきたとき,セラピストはクライエントの恋愛感情の意味を理解し,患者に恥をかかせないよう に注意を払い,「現実生活のために愛情機能を働かせることができるよう準備させる」(Freud, 2015)ことに努めることが重要ではないかと思った。


引用文献:Freud, S.(1915) 転移性恋愛についての見解 フロイト全集第 13 巻,岩波書店,309- 325.


井ノ崎敦子(徳島大学保健管理・総合相談センター)

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